日々のこと

精神科医のおもに読書日記

「僕は受け持ち患者さんが亡くなったことありませんよ」

「僕は受け持ち患者さんが亡くなったことありませんよ」

ある日、医者同士で話していたとき、話に割って入った別の医者がこう言いました。

精神科は、患者が亡くなることは比較的少ない。内科外科なら末期癌のかたが急に担ぎ込まれることだってあります。どんな名医だって死は避けられない。

精神科であっても、予知できない死はあります。自殺はもちろん、アルコール依存症で酔っ払った末の事故死、高齢者の誤嚥性肺炎、腸閉塞からの死。死を経験していない、なんて、「僕は経験不足ですよ」って宣伝するようなもの。


「死んでしまった患者のことを覚えていますか」と聴くのは、医療者の態度をはかる一つの良い手段だと思います。極端なケースを設定した質問はいつだって何かを浮き彫りにする。さりげなく日常会話では使えないけど。

その人のことを、自分が殺した、見捨てた、助けられなかった、と思うか。どうしょうもない不慮の死だと弁解するか。まったく無感覚か。言葉だけでは分からない。深い部分。

特に精神科では、助けられなかった患者には、非常にしばしば、その医師の資質が映し出される気がします。


自分に親子関係のトラウマがあって、まだ克服できていなければ、やはり同じ悩みをもった患者を支えられないかもしれない。

医師が病気なら患者を助けられない。でも完璧な人間なんていない。自分には無理だと思ったら、危ないと思ったら、同僚や先輩に助けをもとめたらいい。

そういえば、そんなことを看護学校の授業で強調して話しました。今思えば自分自身の心の奥からの叫びだったように思う。何も医療行為だけに限らず、日々の生活の中で、無力な思いは度重なる。